Lesson5-2 突然の質問

講師をしていると、突然の質問に対して、その場で即答を求められる場面があります。講師歴の長い講師であっても、質問の受け答えは非常に難しいものです。理由は、講義の時間配分に影響が出やすいということと、質問にもいくつか種類があり、一朝一夕ではいかないといったことが挙げられます。

講師初心者にとってはなおさら、突然の質問というのは怖いものです。この章では、突然の質問を3つに分けて、対処する方法を見ていきます。

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1,基本の質問に対する対処法

まず、突然の質問に対するミスでよくあるのが、回答したあとに「あれ、どこまで話していましたっけ?」と生徒に聞いてしまうことです。これを防ぐために、突然の質問をされた場合は慌てずに、テキストにそれまで話していた箇所にマークを入れることで、回答後スムーズに講義を再開することができます。

そして、質問をしっかり聞き、褒めながら質問を繰り返すことが大切です。これには、以下のような効果があります。

  • 繰り返すことで、回答を考える時間を設けられる
  • 急な質問は、耳に入ってきにくいため、繰り返すことで他生徒と質問内容を共有することができます。
  • 繰り返すことで、「この人は、きちんと話を聞いてくれる人だ」と安心感が生まれ、さらに、質問内容を褒めることで、回答を受け入れてもらえる可能性が高くなります。

以上を実践することで、基本の質問に対する恐怖心を少しずつ取り除いていくことができます。

2,高度な質問に対する対処法

たとえば、コミュニケーション能力の入門講座で、心理学者フロイトが提唱する『無意識の概念』を例に挙げて説明をしていたところ、ある生徒が以下のような質問をしたとします。

「先生、すみません、私は大学で心理学を専攻しているのですが、無意識の概念を説明する上で、フロイトが提唱する無意識の概念だけでは、誤解を招くかもしれません。その後、無意識の概念を発展させたユングの考え方も併せて、説明されたほうがよいのではないでしょうか。」

このように、ある分野に関して、知識が豊富な生徒に高度な質問をされたときは、

「ありがとうございます。心理学を専攻されているのですね。フロイトの無意識の概念だけでは、誤解を招きかねないのですね、もしよろしければ、心理学を学習されている方のお話を直接聞ける機会というのはなかなかありませんので、ユングの無意識の概念を説明いただけると嬉しいのですが」

というように、感謝の気持ちを伝えて、質問を繰り返し、相手を立てながら質問を投げ返すことが大切です。

3,挑発的な質問に対する対処法

生徒のなかには、意地悪で挑発的な質問をすることを楽しむ方もいます。たとえば、ある講師がメンタルヘルスの講座で、『精神』という言葉を使ったとき、

「先生、すみません、精神っていうのは何に基づいてお話されてるのですか?宗教的な話ですか、でしたら興味ないんですが」

というような質問をする生徒がいました。このような挑発的な質問に対しては絶対に正面から受け答えてはいけません。まともに答えると、生徒はさらに揚げ足を取るように質問を繰り返し、講義の進行を妨げる要因となります。

ですが、何も答えないというのも相手の怒りをかってしまう恐れがありますので、挑発的な質問には触れず、話の主旨や答えやすい言葉を取り上げて回答し、徐々に本筋にスライドさせるテクニックが必要となります。たとえば、先ほどの質問に対して回答する場合、

「ここでいう精神とは、ストレス耐性のことです。仕事における、ほんの小さなミスでも重く受け止め過ぎてしまい、萎縮してしまう人がいます。受け止め方は、個人で違うので、繊細で難しい問題ですよね。」

というように主旨である「精神」について話し、「宗教的」な部分には一切触れずに回答するのです。

Lesson5-2 まとめ

  • 突然の質問を受けたら、まずはテキストにそれまで話していた箇所にマークを入れることで、回答後スムーズに講義を再開できる。
  • 突然の質問への対応は、内容をしっかり聞き、褒めながら質問を繰り返すことで、質問に対する恐怖心を少しずつ取り除いていくことができる。
  • 高度な質問を受けたら、感謝の気持ちを伝えて、質問を繰り返し、相手を立てながら質問を投げ返す。
  • 挑発的な質問を受けたら、話の主旨や答えやすい言葉を取り上げて回答し、徐々に本筋にスライドさせる。